18 September 2013

現代教職論

 本レポートでは、1998年に改正された教育職員免許法の背景と、そこから、教師に何が期待されているのか、または教師として身につけておくべき資質と能力がどのようなものであるかについて考察を行う。

まず、教育職員免許法が改正された背景について述べたい。前述のように1998年に教育職員免許法が改正されたが、教育改革が行われるということは、社会が何らかの事情により教師と教育に変化を期待しているということである。つまり、社会が「悪化」もしくは「停滞」していると、社会を構成する人々が感じたとき、それを改善しようと次世代を担う子供たちと教育に託すのである。戦前であれば、1890年に発布された教育勅語にその理念が書いてある。その中には「★国家のための教育、国家のための教員という性格が強調」されている。ここでは善悪は置いておくが、近代国家を樹立したばかりの日本が、欧米諸国をモデルに近代的な国家観を拡げようとしている姿勢が見て取れる。戦後は、戦前の軍国主義や国家主義的な教育からの脱却と、自由・平等・民主主義を中心として人格の完成、個性の尊重、機会の均等を理念とした。また、終戦直後は学校施設と教員の欠乏と、それに伴い無資格教員が増大するという問題が起きた。無免許や専門外の教科では、授業の質の低下は免れない。そうして、本レポートで扱う「教育職員免許法」が施行されることになった。これらの例のように、教育は社会が目指すべき方向を指し示す、公共性が極めて高い機関といえる。

それでは、次に現在(1998)の日本が、教育改革を行わなければならない背景、つまり社会情勢について考える。明治期、または第二次大戦後のような大きな社会の転換ではないが、90年代の日本では、いじめや不登校、児童・生徒の自殺、学級崩壊など、それまで注目されなかった問題、それまでは起こらなかった問題が注目され始めた。これらの深刻な教育問題に対処することが、今回の教育職員免許法改正の狙いである。具体的には、高校第一種免許では、それまで「教科に関する科目」を40単位、「教職に関する科目」を19単位取得する必要があった。改正後の新カリキュラムでは「教科に関する科目」が20単位、「教職に関する科目」が23単位、その他に「教科又は教職に関する科目」が16単位となっている。改正前と改正後を比較すると、それぞれ合計では59単位と変らないが、「教科に関する科目」の比重を減らし、「教職に関する科目」を増やしていることが解る。高校第一種免許に限らず、幼稚園、小学校、中学校、どの免許区分においても、この傾向が認められる。一体、何を目的として、このような変更が行われたのだろうか。この改正に先立ち、1997年に教育職員養成審議会が文部大臣に提出した「新たな時代に向けた教員養成の改善方策について」の第1次答申を見てみたい。この答申は、「教職への志向と一体感の形成」「教職に必要な知識及び技能の形成」「教科等に関する専門知識及び技能の形成」を改正の中心に据え、いわゆる「教職教養」を重視している。「教科に関する科目」がほぼ半減され「教職に関する科目」がより重要視されているのは、この為である。教壇に立つ上で、その教科への専門性や技術といったものは、当然ことながら必要である。しかしながら、深刻な教育問題に直面している現在、教科以外の指導や、教育自体への理解が必要と考えられたからである。

これは次のことからも汲み取れる。新カリキュラムの中で「教職に関する科目」の比重が高まったことは既に述べたが、その枠組みも変更されている。それまでの「教育の目標及び本質に関する科目」は、「教育の基礎理論に関する科目」の中の「教育の理念、並びに教育に関する歴史及び思想」となっている。特定の科目の中で必要な事項を細分化して挙げている。また新カリキュラムには「教職の意義に関する科目」と「総合演習」が追加された。簡約にいえば、前者は「教師になること」ということについて深く考察することを目的とし、後者は「地球的視点に立ち、国社会全体に関わる課題を分析、検討できるようにする」というものである。その他の大きな変更点は、中学校の免許の場合、教育実習の期間が2週間から4週間に延長されたこと、介護等体験が必修とされたことである。

これまで、新カリキュラムの変更点を述べてきたが、ある一連性を見いだせる。それは、この複雑な現代社会の中で教壇に立つにあたり、今まで以上の幅広い教養と人間理解が必要だということである。また、そもそも教職課程というのは教員を目指す人間が踏まえておくべき課程であるが、様々な教育問題が叫ばれる現在、「現実的な教職がどういうものであるか」ということを理解し、それらの問題への解決能力を養うことを期待されているのだと、私は考える。

佐藤晴雄『教職概論』 学陽書房 改定版 2007
吉田辰雄・大森正『教職入門 教師への道』 図書文化 改訂2009

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